本文へスキップ

PR当サイトはアフィリエイトプログラムに参加しています

キャリア

看護師の退職金相場は?公的な平均額がない理由と、勤続3年・10年の計算方法

ナースひとやすみ 編集部約13分で読めます
目次

「看護師の退職金の相場」を探しても、職種別の平均額を示した公的統計は存在しません。あるのは3つだけです。医療・福祉で退職金制度がある職場は75.5%。そのうち98.3%が一時金型。そして額は「退職時の基本給×勤続年数ごとの支給率」でほぼ決まる。つまり相場を探すより、自分の職場の規程を開いて計算したほうが早く正確です。この記事はその計算の手順を追います。

「看護師の退職金は平均◯万円」という数字は、どこにもありません

退職金の公的な調査は、厚生労働省「令和5年就労条件総合調査」がほぼ唯一です。この調査には産業別の表もありますが、金額の表は産業別になっていません。金額(第22表・第23表)は学歴・職種(管理事務技術職/現業職)・勤続年数・企業規模でしか分かれておらず、「医療,福祉」で絞った平均額は公表されていないのです。

さらに金額の表は「勤続20年以上かつ45歳以上の退職者」に限定されています。3年で辞める人、10年で辞める人は、そもそも集計の対象外です。転職サイトで見かける「看護師の退職金の相場は◯万円」は、この公的統計から直接は出てこない数字だと考えてください。

では公的統計から何が分かるのか。まず「そもそも制度があるかどうか」です。

医療,福祉で退職給付(一時金・年金)制度がある企業の割合75.5%

厚生労働省「令和5年就労条件総合調査」第16表(2023年)

産業別 退職給付制度がある企業の割合(抜粋)

金融業,保険業
92.8%
教育,学習支援業
87.3%
製造業
85.6%
卸売業,小売業
77.4%
医療,福祉
75.5%
調査産業計
74.9%
運輸業,郵便業
69.9%
宿泊業,飲食サービス業
42.2%

出典: 厚生労働省「令和5年就労条件総合調査」第16表(16大産業から抜粋)(2023年)

医療・福祉の75.5%は、全産業の74.9%とほぼ同じ水準です。看護師の職場が特別に退職金に弱いわけではありません。ただし裏を返せば、約4社に1社(24.5%)には退職金制度そのものがないということでもあります。「看護師 退職金 ない」で検索する人が一定数いるのは、この24.5%が実在するからです。

しかもこの調査の対象は、常用労働者30人以上を雇用する民営企業(医療法人・社会福祉法人を含む)に限られます。職員30人未満の小規模クリニックは調査対象外で、自治体立の公立病院も「民営企業」ではないため含まれません。小さなクリニックで働いている人にとっては、75.5%はむしろ高めに見える数字だと受け止めたほうが安全です。

なお全産業計の数字は、平成30年調査では80.5%でした。5年で5.6ポイント下がっています。退職金制度は、いま緩やかに縮んでいる制度です。

医療・福祉の退職金は「一時金・基本給ベース」にほぼ統一されている

制度の中身を見ると、医療・福祉には全産業とはっきり違う特徴があります。単位の異なる2種類の指標を1枚にまとめます。

指標医療,福祉調査産業計
退職一時金制度のみ86.9%69.0%
退職年金制度のみ1.7%9.6%
両制度併用11.4%21.4%
(再掲)退職一時金制度がある98.3%90.4%
(再掲)退職年金制度がある13.1%31.0%
算定基礎額が「退職時の賃金」71.6%56.0%
うち「すべての基本給」53.4%37.2%
算定基礎額が「別に定める金額」38.8%44.7%
うち「点数(ポイント)方式」11.8%19.6%

出典:制度の形態は厚生労働省「令和5年就労条件総合調査」第16表、算定基礎額は同第30表(退職一時金の支払準備に社内準備を採用している企業=100、複数回答)。

読み取れることは2つです。

ひとつは、看護職場の退職金はほぼ例外なく「一時金」だということ。退職年金制度がある職場は13.1%しかなく、全産業の31.0%の半分以下です。「年金として少しずつ受け取る」選択肢は、最初から無い前提で考えて構いません。

もうひとつが重要です。算定基礎額に「退職時の賃金」を使う職場が71.6%、そのうち「すべての基本給」が53.4%。ポイント方式は11.8%にとどまります。つまりあなたの退職金は、辞めるときの基本給でほぼ決まります。

ここが求人票を読むときの分かれ目になります。月給の総額が同じでも、基本給20万円+手当12万円の職場と、基本給27万円+手当5万円の職場では、10年後の退職金が3割以上違う計算になります。基本給の額は毎月の手取りにはあまり効きませんが、退職金には直接効く。求人票の読み方は看護師の求人票の見方でも扱っていますが、退職金の観点では「基本給がいくらか」の一点を見れば足ります。

勤続3年・10年で辞めるとき、いくらになるのか

ここからが本題です。額は「基本給×支給率」で出ます。順に固めていきます。

まず「3年の壁」を確認する

医療・福祉には、はっきりした区切りがあります。自己都合で辞めたときに退職一時金を受け取るために必要な最低勤続年数の分布です(退職一時金制度があり、支払準備に社内準備を採用している企業を100とした割合)。

医療,福祉:自己都合退職で退職一時金の受給に必要な最低勤続年数

1年未満
5.8%
1〜2年未満
12.1%
2〜3年未満
4.5%
3〜4年未満
61.0%
4〜5年未満
3.2%
5年以上
10.3%
不明
3.1%

出典: 厚生労働省「令和5年就労条件総合調査」第30表・第32表(医療,福祉/社内準備を採用している企業)(2023年)

「3年以上4年未満」が61.0%と突出しています。 4年以上・5年以上を足すと、3年以上を求める職場は合計74.5%。逆に3年未満で受給できる職場は22.4%しかありません。1企業平均の最低勤続年数は34.2か月、およそ2年10か月です(会社都合なら30.0か月)。調査産業計は35.8か月なので、医療・福祉のほうが1か月半ほど短い設定になっています。

読み方はこうです。3年を境に、受給できる職場が2割台から8割台へ一気に跳ね上がります。 2年10か月で辞めるか、3年を越えてから辞めるか。この差が「ゼロか数十万円か」を分ける可能性があるなら、退職日の設定は交渉する価値があります。自分の職場の最低勤続年数が何年かは規程に書いてあるので、まずそこを確認してください。

支給率を当てはめて試算する

民間病院の支給率は各法人の規程次第ですが、多くの規程が参考にしているのが国家公務員の基準です。国家公務員退職手当法(昭和28年法律第182号)第3条は、退職手当の基本額を「退職日の俸給月額×勤続期間の区分ごとの割合」と定めています。

勤続期間の区分1年あたりの割合自己都合の場合の掛け率
1〜10年100分の1001〜10年:100分の60
11〜15年100分の11011〜15年:100分の80
16〜20年100分の16016〜19年:100分の90
21〜25年100分の20020年以上:減額なし
26〜30年100分の160—
31年以上100分の120—

出典:国家公務員退職手当法 第3条第1項・第2項(2025年10月1日施行時点)。実際の支給額は、この基本額に同法第6条の4の調整額を加えたものです。

この支給率に、日本看護協会「2025年 病院看護実態調査」の勤続10年の看護師(非管理職)の平均基本給与額254,286円を当てはめると、次のようになります。

勤続年数(自己都合)支給率基本給254,286円での試算退職所得控除額
3年1.80か月分約45.8万円120万円
5年3.00か月分約76.3万円200万円
10年6.00か月分約152.6万円400万円
15年12.40か月分約315.3万円600万円
20年23.50か月分約597.6万円800万円

※支給率の変化だけを見るため、基本給を全勤続年数で254,286円に固定した試算です。実際には勤続とともに基本給が上がるため、長く勤めた場合の額はこれより大きくなります。あくまで「桁を把握するための目安」として使ってください。

注目すべきは支給率の伸び方です。3年から10年で3.3倍、10年から20年でさらに3.9倍。1年あたりの単価が、勤続が延びるほど上がる設計になっています。10年目の1年と20年目の1年では、退職金に与える影響がまるで違う。これが「あと2年だけ」という引き止めが起きる構造的な理由でもあります。

⚠️ つまずきやすい落とし穴

いちばん多いのが、「退職金は勤続年数×月給」と単純計算して、実際の支給額を見て驚くケースです。分母は月給ではなく基本給です。夜勤手当・住宅手当・通勤手当は算定基礎に入りません。月給32万円でも基本給が22万円なら、10年勤続の試算は約132万円で、月給ベースの想定より60万円近く低く出ます。もうひとつ、勤続年数のカウントには休職・育休期間を除外する規程が珍しくありません。「在籍10年」と「勤続10年」が一致しない場合があります。就業規則ではなく退職金規程(退職手当規程)という別冊に書かれていることが多いので、人事や事務部門に「退職金規程を見せていただけますか」と求めるのが確実です。労働基準法第89条第3号の2は、退職手当の定めをする場合、適用される労働者の範囲・決定と計算と支払の方法・支払の時期を就業規則に記載するよう義務づけています(常時10人以上の労働者を使用する職場)。そして同法第106条第1項は、その就業規則を見やすい場所への掲示や書面の交付などの方法で労働者に周知させることを使用者に義務づけています。「見せてもらえるか」ではなく、本来は見られる状態に置かれているべきものです。

退職金の条件を、次の職場選びの基準にしてみませんか

基本給の水準や退職金制度の有無は、求人票だけでは読み取れないことがあります。まずは無料で相談できます。

公立病院の看護師は、条例で決まる

自治体立の病院で働く看護師は地方公務員です。退職手当は各自治体の条例で定められ、国家公務員退職手当法の仕組みに準じた設計を採る自治体が多くあります。前掲の支給率の表が、そのまま目安として使える場合が多いのはこのためです。

ただし「国と同じ」とは限りません。調整額の扱い、定年退職・勧奨退職の優遇(同法第5条に別の支給率が定められています)、独自の加算など、条例ごとに差があります。自分の額を知りたいときは、勤務先の自治体名と「職員の退職手当に関する条例」で検索すれば、条文そのものが公開されています。 民間病院と違い、条文が誰でも読める形で公開されているのが公立病院の大きな利点です。

⚠️ つまずきやすい落とし穴

公立病院から民間病院へ、あるいはその逆へ移るときに見落とされがちなのが、勤続年数が通算されないことです。地方公務員の退職手当は自治体をまたいでも通算される仕組みがある一方、公立から民間法人へ移れば勤続はゼロから数え直しになります。前掲の表のとおり支給率は勤続が延びるほど加速するので、「15年+15年」は「30年」の半分よりかなり少なくなります。公立病院で15年勤めた人が転職を考えるとき、この差を金額で把握しないまま決めてしまうのは惜しい判断です。異動や院内での配置転換で解決できないかを、転職の検討と同時に確認してください。

退職金に税金はかかるのか

ほとんどの看護師の場合、所得税も住民税もかかりません。退職金には手厚い控除があるためです。

国税庁の定めによる退職所得控除額は、勤続20年以下なら40万円×勤続年数(80万円に満たない場合は80万円)、20年を超えるなら800万円+70万円×(勤続年数−20年)。勤続年数の1年未満の端数は1年に切り上げます。課税対象となる退職所得は「(退職金−退職所得控除額)×2分の1」です。

前掲の試算表と並べてみてください。勤続10年の試算152.6万円に対して控除は400万円、勤続20年の597.6万円に対して控除は800万円。どの行でも控除額が支給額を大きく上回ります。 看護師の退職金で課税が発生するのは、長期勤続かつ管理職まで進んだケースや、公立病院の定年退職など、かなり限られた場面です。

⚠️ つまずきやすい落とし穴

税金がかからないはずなのに、振り込まれた額が2割少ない——という事態が起きます。原因は「退職所得の受給に関する申告書」の未提出です。この書類を勤務先に出していないと、控除は一切考慮されず、支給額に一律20.42%の所得税及び復興特別所得税が源泉徴収されます(国税庁タックスアンサーNo.2732)。150万円なら約30万6千円が引かれる計算です。引かれた分は自分で確定申告をすれば戻ってきますが、翌年まで手元に戻りません。退職手続きの書類の束に紛れやすい1枚なので、最終出勤日までに「退職所得の受給に関する申告書は提出済みですか」と事務部門に一度確認しておくと安全です。なお勤続5年以下の短期退職手当等は、300万円を超える部分について2分の1の計算が適用されない点にも注意してください。

退職金まわりでよくある失敗

  • 失敗例1:内定承諾後に退職日を決めてしまい、受給資格に1か月届かなかった → 前掲のとおり74.5%の職場が「3年以上」を条件にしています。退職日を動かせる余地は、入職日の交渉と一体で決まります。退職金規程の最低勤続年数を先に確認してから、内定先に入職日を相談する順番にしてください。
  • 失敗例2:「退職金は出ます」という口頭の説明だけで転職を決めた → 制度の有無は規程で確認できます。面接の場では聞きにくければ、内定後の労働条件通知書の交付時に「退職金制度の有無と、受給に必要な最低勤続年数」を確認すれば足ります。手続きの進め方は看護師の円満退職のコツもあわせてご覧ください。
  • 失敗例3:退職金を当てにして退職後の生活費を組んだ → 支給時期は法律で定められておらず、各職場の規程次第です。退職月の給与と同時に振り込まれる職場もあれば、数か月後の職場もあります。退職後の収入の空白は退職金ではなく、雇用保険の基本手当で埋める前提で組み立てるのが現実的です。看護師の失業保険と退職後の手続きで時系列を確認しておいてください。

よくある質問

Q. 退職金はいつ支払われますか?

A. 支払日を一律に定めた法律はありませんが、労働基準法第89条第3号の2は、退職手当の定めをする場合は「退職手当の支払の時期に関する事項」を就業規則に記載するよう義務づけています(常時10人以上の労働者を使用する職場)。つまりあなたの職場の規程には、支払時期が書かれているはずです。 退職を申し出る前に、規程の「支給時期」の条項を確認しておくのが確実です。

Q. 勤続3年未満だと退職金はまったく出ませんか?

A. 職場によります。医療・福祉で自己都合退職の受給に必要な最低勤続年数は「3年以上4年未満」が61.0%ですが、「1年未満」でよい職場も5.8%、「1〜2年未満」が12.1%あります(厚生労働省「令和5年就労条件総合調査」第32表)。自分の職場の規程を見ないと判断できません。

Q. 転職先を選ぶとき、退職金のある職場を優先すべきですか?

A. 一概には言えません。前掲の試算では勤続10年で約152.6万円、月額に均すと約1.3万円です。基本給が月2万円高い職場に移れば、10年で240万円の差になります。退職金の有無だけでなく、基本給の水準・昇給の傾向とあわせて比べてください。年収の地域差は看護師の年収が高い都道府県で確認できます。

基本給と退職金制度を、条件面から比べてみませんか

求人票に書かれていない退職金規程の中身まで、第三者に確認してもらうこともできます。

まとめ

  • 「看護師の退職金の平均額」を示した公的統計はありません。 公表されているのは制度の有無(医療・福祉で75.5%)、制度の型(一時金が98.3%)、そして計算の仕組みです。
  • 額は「退職時の基本給×勤続年数ごとの支給率」でほぼ決まります。 医療・福祉では71.6%が「退職時の賃金」を算定基礎にしています。月給ではなく基本給が分母です。
  • 自己都合退職の受給ラインは「勤続3年」が61.0%。 退職日の設定次第で、金額がゼロか数十万円かが変わります。
  • 税金はほとんどかかりませんが、「退職所得の受給に関する申告書」を出し忘れると20.42%が源泉徴収されます。

年収全体の水準から職場を比べたい方は、親記事の看護師の年収が高い都道府県は?1位滋賀585万円・地域差150万円の理由もあわせてご覧ください。基本給と賞与の関係は看護師のボーナス平均はいくら?で扱っています。