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お悩み相談

看護師がミスをしたときの責任|民事・刑事・行政処分の違いと賠償保険の補償範囲

ナースひとやすみ 編集部約14分で読めます
目次

インシデントレポートを書き終えたあとも、「訴えられるのでは」「免許はどうなるのか」と考えが止まらない。そんなときに知っておきたいのは、ミスをしたからといって、すぐに免許を失うわけではないということです。看護師が問われうる法律上の責任は、民事(損害賠償)・刑事(刑罰)・行政(免許の処分)の3つで、それぞれ要件も、決める人も違います。 厚生労働省の看護倫理部会が直近3回(2023〜2025年)で行政処分とした看護師・保健師は65名で、答申に並ぶ罪名のうち業務上過失致死傷を含むのは3名でした。

一方で、賠償責任保険に入っていれば安心、というわけでもありません。日本看護協会の看護職賠償責任保険は示談交渉を行わず、刑事事件の弁護費用も補償内容に挙げられていません。

ミスをした直後の方は、後半の「ミスに気づいたときの手順」から読んでください。職場の懲戒は就業規則で決まるため、この記事では扱いません。個別の事案で過失や賠償額がどうなるかは、弁護士への相談が必要です。

「ミスが怖い」は、3つの責任が混ざっている

ミスへの恐怖が大きくなるのは、「訴えられる」「逮捕される」「免許を取られる」が1つの塊として想像されるからです。実際には、次の3つは別々の手続きです。

責任誰が問うか根拠何が起きるか看護師個人に及ぶ条件
民事患者・家族民法709条(不法行為)、415条(債務不履行)、715条(使用者責任)損害の賠償(お金)故意または過失で損害を与えたとき。病院も使用者として責任を負い、病院から個人への求償もありうる(715条3項)
刑事国(警察の捜査、検察の起訴)刑法211条(業務上過失致死傷)5年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金業務上必要な注意を怠り、よって人を死傷させたとき
行政厚生労働大臣(准看護師は都道府県知事)保健師助産師看護師法14条戒告/3年以内の業務停止/免許の取消し罰金以上の刑、業務に関する犯罪や不正の行為、心身の障害、麻薬などの中毒(9条)、品位を損する行為があったとき

出典: 民法・刑法・保健師助産師看護師法(e-Gov法令検索)

  • 民事は「お金」の話で、病院も責任を負います。 職員が業務で与えた損害は、原則として病院の責任にもなります(715条1項)
  • 刑事は、注意を怠ったことと、人が死傷した結果の両方が条文の要件です。 人が死傷していないヒヤリ・ハットは、この条文の対象外です
  • ミスがあったというだけで、免許の処分が決まるわけではありません。 処分は、罰金以上の刑や業務に関する犯罪・不正の行為、品位を損する行為などがあったかを見て、事案ごとに判断されます。ただし、過失で患者を死傷させて業務上過失致死傷罪で罰金以上の刑になれば、処分の対象になります

免許の処分は「犯罪・不正」が起点——直近3回の処分65名の中身

看護師・保健師の行政処分は、医道審議会の看護倫理部会がおおむね年1回審議し、議事要旨に処分の内訳と罪名を公表しています。2026年9月26日時点で公表されている直近3回を並べました。

審議日諮問行政処分うち免許取消業務停止戒告行政指導(厳重注意)罪名に業務上過失致死傷を含む
2023年11月27日27名19名6名13名0名8名3名
2024年11月7日36名24名4名17名3名12名0名
2025年8月19日33名22名5名16名1名11名0名

出典: 厚生労働省「医道審議会保健師助産師看護師分科会看護倫理部会 議事要旨」(各回)。対象は看護師及び保健師で、准看護師(都道府県知事の処分)は含まない。行政指導(厳重注意)は、14条の処分には至らなかった人への指導です

処分65名の罪名を、答申の概要から数え直すと次のようになります。

直近3回で行政処分を受けた看護師・保健師のうち、罪名に業務上過失致死傷を含む人(2023〜2025年)65名中3名

厚生労働省 医道審議会保健師助産師看護師分科会看護倫理部会 議事要旨(2023〜2025年)

数え方: 1人に複数の罪名がある場合は、交通関係(道路交通法違反・過失運転致死傷・危険運転致傷)か業務上過失致死傷を1つでも含めばその区分に入れました(両方を含む人はいません)。それ以外は、窃盗・詐欺・薬物・暴行などの「その他の刑事事件」です。交通関係は2023年6名・2024年10名・2025年7名です。

  • 言えること: 処分の大半は、私生活を含む刑事事件です。業務上過失致死傷を罪名に含む3名(いずれも2023年)の処分は、業務停止2か月が1名、3か月が2名でした
  • 言えないこと: 議事要旨には、業務上過失致死傷が医療行為によるものかどうかは書かれていません。処分に至らなかった医療事故の数や、刑事手続きの件数も、ここからは分かりません

行政処分で、医療過誤はどう扱われるのか

医療過誤の扱いは、看護倫理部会の「保健師助産師看護師に対する行政処分の考え方」(2016年12月改正)に書かれています。厳しい側と、緩和する側の両方を原文から引きます。

看護師等が国民の信頼に応えず、当然要求される注意義務を怠り、医療過誤を起こした事案については、専門職としての責任を問う処分がなされるべきである。 行政処分の程度は、基本的には司法処分の量刑などを参考に決定する。明らかな過失による医療過誤や繰り返し行われた過失など、看護師等として通常求められる注意義務が欠けているという事案については、重い処分を検討するべきである。 ただし、医療過誤は、様々なレベルの複合的な管理体制上の問題の集積によることも多く、一人の看護師等の責任に帰することができない場合もある。

注意義務違反の程度を判断するときは、病院の管理体制や医療体制、他の医療従事者の注意義務違反の程度、生涯学習に努めていたかなども考慮するとしています。再犯の場合は、資質や適性を欠くものでないかを特に検討すべきとも書かれています。

医療事故には、複数の職種が関わるものがあります。日本医療機能評価機構の2025年年報では、報告された医療事故情報6,118件で「事例に関わった職員」として、看護師3,849、医師3,812が挙がっています。1件に複数の職種を数える集計で、看護師と医師を足しただけで事例数を上回ります。

ここから言えることは次のとおりです。

  • 考え方が挙げている考慮事項は、管理体制や生涯学習などで、報告や記録の扱いは書かれていません。それでも、報告した事実や研修の受講記録は、自分の状況を説明する材料になりえます
  • 考え方は、業務に関する不正の行為などが国民の信頼を失墜させ、職業倫理に反するような行為である場合は、司法処分の有無に関わらず行政処分を行うとしています。記録の改ざんや報告の隠蔽は考え方に例示されていませんが、ミスとは別の行為として、この「不正の行為」に当たるかが問われうると考えておくのが安全です
  • この考え方は、職場を見る目安にもなります。 報告しても個人だけが責められず、ダブルチェックなどの確認の仕組みがある職場なら、ミスをしたことだけを理由に職場を変える必要はありません。報告すると責められる、確認の仕組みが無い、といった状態が続くなら、体制を比べて職場を選び直すのも選択肢です。体制の見分け方は看護師のブラック病院の見分け方で整理しています

民事の責任——誰が、何を払うのか

患者側が損害賠償を求める根拠は、主に2つです。

  • 不法行為(民法709条): 故意または過失で他人の権利を侵害した人が、損害を賠償する。看護師個人も対象になりえます
  • 債務不履行(民法415条): 診療契約の本来の内容どおりに履行されなかったときの賠償

職員が業務で患者に損害を与えた場合、病院は原則として使用者としての責任を負います(715条1項。選任・監督に相当の注意をしていた場合などの例外あり)。病院が賠償したあと、看護師個人に求償することは条文上妨げられていません(715条3項)が、どこまで求められるかは事案ごとの判断になります。

人の生命・身体を害する不法行為の損害賠償請求権は、被害者が損害と加害者を知った時から5年、または不法行為の時から20年で時効により消滅します(724条・724条の2)。

賠償保険が補償するもの・しないもの

日本看護協会の看護職賠償責任保険制度は、看護職の業務で他人の身体や財物に損害を与えたとき、看護職個人に生じた法律上の損害賠償責任を補償します。2026年度の補償内容は次のとおりです。

補償項目1事故の限度額補償期間中の限度中身
対人賠償5,000万円1億5,000万円治療費・入院費・慰謝料・休業補償など
対物賠償100万円100万円修理費・再購入費用など
争訟費用原則全額(限度額の適用外)―訴訟費用・弁護士報酬・仲裁・和解・調停に要する費用など。損害賠償金が限度額を超える場合は割合で削減
初期対応費用1被害者500万円(うち見舞費用10万円)―事故調査費用・通信費・見舞金など
人格権侵害5,000万円5,000万円(対人賠償の内枠)名誉・プライバシーの侵害(秘密漏えいを含む)
法律相談費用10万円30万円就業中のハラスメントで弁護士に相談した費用
弁護士費用100万円100万円就業中のハラスメントで弁護士に委任した費用

出典: 日本看護協会「看護職賠償責任保険制度 賠償事故発生後の補償内容について(2026年度)」。法律相談費用・弁護士費用の2項目は、就業中のハラスメントで弁護士に相談・委任した費用が対象です。ミスの損害賠償をめぐる訴訟の弁護士報酬は、争訟費用に当たります

損害賠償をめぐる訴訟の弁護士報酬などは、争訟費用として支払いの対象に挙がっています。補償の対象は保健師助産師看護師法にもとづく業務で、災害派遣や特定行為、研修・臨床実習も含まれ、報酬の有無は問いません。一方、次の点は補償の外、または全額ではありません。

  • 示談交渉はしない: 保険会社が相手方と交渉する仕組みではありません
  • 使用者責任がある場合や、相手方にも過失がある場合: 相手方の損害額の全額は補償されません
  • 刑事事件の弁護費用や、行政処分への対応: 補償内容に挙げられていません
  • 故意、美容を唯一の目的とする業務、自動車の使用など: 保険金を支払えない主な場合に挙がっています

加入の条件や掛金は、日本看護協会の制度案内で確認してください。勤務先や別の団体の保険に入っている場合は、示談交渉の有無と、示談を承認する条件を約款で確かめてください。

ミスに気づいたときの手順

手順1: 患者の安全を確保し、すぐに報告する

最初にするのは、患者の状態の確認と、院内の手順に沿った報告です。報告が遅れるほど、影響を小さくする手段が減ります。報告は、事実と今の状態を短く伝えます。

◯号室の◯◯さんについて報告です。◯時に指示と違う◯◯を実施した可能性があります。現在の状態は◯◯です。対応の指示をお願いします。

⚠️ つまずきやすい落とし穴

いちばん起きやすいのは、「まず自分で確かめてから」「大ごとにしたくない」と考えて、報告の前に一人で様子を見てしまうことです。その間に患者の状態が変わると、対応が遅れた時間そのものが問題になります。たとえば投与量の違いに気づいたのに、次の検温まで待ってから伝えると、その間の観察や処置の指示を受ける機会を失います。報告の時点で原因や責任を説明できる必要はありません。「可能性がある」という段階で、事実と今の状態だけを伝えれば十分です。報告の意味と、怖さを小さくする手順は、新人看護師の「ミスが怖い」を数字で解きほぐすで詳しく扱っています。

手順2: 事実を時系列で記録する

インシデントレポートと看護記録には、時刻・行ったこと・観察したこと・報告した相手を、推測と分けて書きます。

  • 書く: 「10:15 ◯◯を実施。10:40 訪室時に◯◯を確認、10:42 リーダーへ報告」
  • 書かない: 「おそらく私の確認不足が原因で」(原因の評価は分析の段階で行う)
⚠️ つまずきやすい落とし穴

避けたいのは、ミスに気づいたあとで看護記録を書き直したり、時刻をさかのぼって追記したりすることです。事実を正確にしたいという動機でも、あとから手を入れた記録は「何を隠そうとしたのか」という疑いを生みます。訂正が必要なときは、勤務先の記録の規程に沿って、元の記載と訂正の経緯があとから分かる形で行ってください。迷ったら、訂正する前に上司や記録の担当者に相談します。正規の手順で書かれた記録は、あとで自分の状況を説明する材料になります。

手順3: 賠償の話は病院の担当部署へつなぎ、相談先を押さえる

患者や家族から賠償の話が出たら、個人では答えず、担当部署へつなぎます。

ご心配をおかけしています。補償などのお話については、病院の担当部署から改めてご連絡します。

  • 院内: 医療安全管理の担当部署、看護管理者
  • 保険: 加入している賠償責任保険の窓口(事故が起きたら早めに連絡)
  • 法律: 弁護士(刑事手続きの連絡が来た場合や、個人に請求が来た場合)。勤務先に相談できる弁護士がいるかは、医療安全管理の担当者に確かめます
⚠️ つまずきやすい落とし穴

ミスのあと、誠意を示したい気持ちから、個人の判断で「治療費は私が払います」と約束したり、金額を書いた念書に署名したりするのは避けてください。日本看護協会の保険は示談交渉をしないうえ、保険会社や事故審査委員会の承認を得ずに自分で示談すると、示談金額の一部または全部が保険金として支払われない場合があると明記されています。これは、患者の状態や起きた事実の説明を遅らせるという意味ではありません。金銭の約束だけは個人で決めない、ということです。

失敗例・よくあるNG

  • NG①: 「ミス=免許取消」と思い込み、報告を遅らせる → ミスをしただけで処分が決まるわけではない(要件は刑・不正の行為・品位を損する行為など)。遅れると、患者への影響を小さくする手段が減る
  • NG②: 保険があるからと、個人で示談の約束をする → 承認のない示談は保険金が支払われない場合がある
  • NG③: 賠償保険があれば刑事も行政も守られると思う → 補償内容に挙がっているのは民事の賠償と争訟費用など。刑事の弁護費用や行政処分への対応は挙げられていない

よくある質問

Q. 新人のミスでも、看護師個人が訴えられることはありますか?

A. 民法709条のうえでは、看護師個人も損害賠償の相手方になりえます。同時に、病院も使用者責任(715条)を負います。個別の事案で誰にどれだけの責任が認められるかは、事実関係によって判断が分かれるため、弁護士への相談が必要です。

Q. 免許を取り消されたら、二度と看護師として働けませんか?

A. 再免許の制度があります(14条3項)。ただし、罰金以上の刑などで取消しを受けた人は、取消しの日から5年を経過しないと再免許を受けられません。業務停止や戒告を受けた人には、再教育研修の受講が命じられることがあります(15条の2)。直近3回の審議で諮問された再免許の付与(2023年3名〈元看護師と元助産師〉、2024年2名、2025年2名)は、いずれも不適当と答申されました。

Q. 准看護師の処分は、誰がするのですか?

A. 都道府県知事です(保健師助産師看護師法14条2項)。処分の種類は看護師と同じく、戒告・3年以内の業務停止・免許の取消しです。この記事の65名は看護師及び保健師の数で、准看護師は含みません。

Q. 賠償や刑事責任は、何年前のミスまで問われますか?

A. 人の生命・身体を害する不法行為の損害賠償請求権は、被害者が損害と加害者を知った時から5年、不法行為の時から20年で時効により消滅します(民法724条・724条の2)。刑事の公訴時効は罪によって異なるため、個別に確認が必要です。

Q. インシデントレポートを出すと、処分の対象になりますか?

A. 報告したこと自体を行政処分の要件とする規定はありません。要件は、罰金以上の刑、業務に関する犯罪や不正の行為、品位を損する行為などです(保健師助産師看護師法9条・14条)。報告と記録は、自分の状況を説明する材料にもなりえます。

ダブルチェックの仕組みや人員配置を、職場ごとに比べておく

報告すると責められる、確認の仕組みが無いといった状態が続くなら、職場を比べる余地があります。確認の仕組みや夜勤の人数は職場によって違うので、条件を比べておくと判断材料になります。

まとめ

  • 法律上の責任は3種類: 民事(賠償・病院も使用者責任)、刑事(業務上過失致死傷)、行政(戒告・業務停止・取消)。要件も決める人も違う
  • 免許の処分はミスだけでは決まらない: 直近3回の処分65名のうち、罪名に業務上過失致死傷を含むのは3名(業務停止2〜3か月)。ただし考え方は、注意義務を怠った医療過誤には責任を問う処分をすべきとしている
  • 報告と正規の手順での記録を優先する: 隠蔽や記録の改ざんは、ミスとは別に問われうる
  • 日本看護協会の賠償保険は個人の賠償責任が対象: 争訟費用は対象、示談交渉はしない。自分で示談すると支払われない場合がある

状況に合わせて、次の記事も参考にしてください。