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お悩み相談

オペ室のパワハラ|医師の言動はどこから指導でなくなるのか

ナースひとやすみ 編集部約12分で読めます
目次

「オペ室は怒鳴られて当たり前」——この前提から降りるところから始めます。

日本医療労働組合連合会の調査(2022年・回答35,933人)で、パワーハラスメントを受けた相手の2番目に多かったのは「医師」で39.9%でした。指揮命令系統の上にいるわけではない相手が、行為者の4割を占めている。医師と看護師が密室で数時間ひとつの作業を共有する部署ほど、この構図は濃く出ます。

そしてその医師があなたと同じ病院に雇用されているなら、その言動は病院が講じるべき措置の対象です。「医局のことだから看護部は口を出せない」は、制度上そうなっていません。

この記事では、①緊急時の指示とハラスメントを指針の言葉で分ける、②病院の責任がどこまで及ぶかを確かめる、③手術室に合わせた記録と相談、の3つを扱います。パワハラ全般の判定と手順は看護師のパワハラ対処法にまとめています。

1. 行為者は誰か——相手別に見ると景色が変わる

同じ調査は、ハラスメントを受けた相手も聞いています(該当するものすべてを選択)。パワハラとセクハラを並べると、看護の職場の特殊性がはっきりします。

受けた相手パワハラセクハラ読み取れること
看護部門の上司60.1%8.1%パワハラは圧倒的に組織内の上下関係
医師39.9%20.9%どちらでも2位。指揮命令系統の外にいる第2の行為者
同僚21.4%7.2%同僚間も2割を超える
患者20.5%78.7%セクハラは患者が圧倒的多数
家族5.9%2.1%—
その他3.2%3.2%—

出典: 日本医療労働組合連合会「2022年 看護職員の労働実態調査」報告集 問25(回答35,933人・複数回答)

パワーハラスメントを受けた相手に「医師」を挙げた看護職員の割合(受けた人の中での割合・複数回答)39.9%

日本医療労働組合連合会「2022年 看護職員の労働実態調査」問25(2022年)

パワーハラスメントを受けた相手(看護職員・複数回答)

看護部門の上司
60.1%
医師
39.9%
同僚
21.4%
患者
20.5%
家族
5.9%
その他
3.2%

出典: 日本医療労働組合連合会「2022年 看護職員の労働実態調査」報告集 問25(回答35,933人・複数回答)

一般的なパワハラの解説は「上司から部下へ」を前提に書かれています。看護の職場では、その前提が4割ぶん外れます。 医師はあなたの人事評価もしなければ勤務表も組まない。それでも行為者の2位に入るのは、評価権限とは別の種類の力が働いているからです。

なお同調査で「手術室」勤務と答えた人は4.6%(1,633人)。20人に1人という少数部署なので「うちの科だけかもしれない」と感じやすいのですが、相手別のデータは、これが部署の特殊事情ではなく職種構造の問題であることを示しています。

2. 器械出しが「怖い」と感じるのは、構造による

同じ報告書には、ハラスメントの具体的な内容が自由記述として収録されています。そこで最初に置かれているのが「1. 医師から」の章で、内容は3つに分類されています——セクハラ、威圧的な言動と態度、いやがらせ。

手術・検査の場面に直接関わる記述を挙げると、次のようなものです。

  • 「手術中の機械出し、検査の介助などにクレームが多い」(いやがらせ)
  • 「わざと違った指示を出して、試す」(いやがらせ)
  • 「違う看護師を呼んで来い、変われと言われる」(威圧的な言動と態度)
  • 「スタッフや患者・家族の前で怒鳴る」(威圧的な言動と態度)
  • 「自分の非を認めず、看護師のミスにする」(威圧的な言動と態度)

出典: 日本医療労働組合連合会「2022年 看護職員の労働実態調査」報告集「Ⅲ セクハラ・パワハラの具体的な内容」

これらはすべて、公表された調査報告書に載っている全国の看護職の言葉です。あなたの職場の話ではありませんが、あなたの職場だけの話でもありません。

環境の側も見ておきます。厚生労働省「令和5(2023)年 医療施設(静態・動態)調査」によると、令和5年9月の1か月間に悪性腫瘍手術を実施した一般病院は1,901施設(一般病院7,065施設の26.9%)、件数は59,880件、実施1施設あたり31.5件でした。手術を担う病院は限られ、そこでは月30件前後を、ほぼ固定された顔ぶれで回している計算です。

この「固定された顔ぶれ」が逃げ場のなさをつくります。病棟なら勤務帯を変えれば距離が取れますが、術式の担当が決まっている手術室では同じ医師と同じ台に繰り返し入り、しかも手術中は中断も退室もできません。構造として、避けるという選択肢が最初から存在しないのです。

手術室の経験は、外に出ると評価が変わる

器械出し・外回りの経験は、病院以外の職場でも通用します。いま動くかどうかを決める前に、選べる場所を知っておくだけでも視野が変わります。

3. 緊急時の指示とハラスメントは、指針の言葉で分けられる

手術室で難しいのは、本当に緊急で語気が強くなる場面が実在することです。出血が止まらない、バイタルが崩れる——その瞬間の短い強い指示には、業務上の必要性があります。

厚生労働省の指針(令和2年厚生労働省告示第5号)は、パワーハラスメントを①優越的な関係を背景とした言動で、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③就業環境が害されるもの、と定義し、①〜③をすべて満たすものとしています。そして「業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、職場におけるパワーハラスメントには該当しない」と明記しています。

つまり緊急時の強い指示は②で外れる可能性が高い。ここを混同すると「じゃあ全部指導なんだ」と諦めることになりますが、指針はもっと細かく線を引いています。

「精神的な攻撃」で該当すると考えられる例
  • 人格を否定するような言動を行うこと
  • 業務の遂行に関する必要以上に長時間にわたる厳しい叱責を繰り返し行うこと
  • 他の労働者の面前における大声での威圧的な叱責を繰り返し行うこと
該当しないと考えられる例
  • 社会的ルールを欠いた言動が見られ、再三注意しても改善されない労働者に対して一定程度強く注意をすること
  • 業務の内容や性質等に照らして重大な問題行動を行った労働者に対して、一定程度強く注意をすること

並べるとわかります。分かれ目は「強さ」ではなく、「必要性」「繰り返し」「人前」の3つです。

術中の30秒の強い指示は、必要性があり、単発で、その場の全員が業務上の必要でそこにいます。一方、術後に他科も同席する場で30分責め続ける、同じミスを何か月も持ち出す、器械出しの手順と関係のない人格の話をする——これらは必要性でも繰り返しでも人前でも、該当例の側に寄ります。

「オペ室は怒鳴られて当然」という説明は、指針のどこにも根拠がありません。 当然とされているのは、緊急時に必要な指示が短く強くなることだけです。

4. その医師の言動は、病院の責任の範囲にあるか

指針が定める事業主の措置義務は、「当該事業主が雇用する労働者」が行うパワハラを防止するためのものです。指針は「労働者」を、正規雇用だけでなくパートタイム・契約社員等を含む事業主が雇用する労働者のすべてと定義しています。

つまり、その医師が同じ病院に雇用されている常勤・非常勤医なら、あなたと同じ「その病院が雇用する労働者」です。 病院はその言動について、相談体制の整備や事後の対応といった措置を講じる義務を負います。「医局のことだから看護部は関われない」は、制度の立て付けとは違います。

もうひとつが「優越的な関係」の要件です。医師はあなたの人事権を持たないことが多い。それでも指針は、この言動の例として次を挙げています。

  • 職務上の地位が上位の者による言動
  • 同僚又は部下による言動で、当該言動を行う者が業務上必要な知識や豊富な経験を有しており、当該者の協力を得なければ業務の円滑な遂行を行うことが困難であるもの

術式を決め、術野を進めるのは医師です。その協力なしに器械出しの業務は成立しません。地位の上下ではなく、業務遂行上の依存関係で要件を満たしうる——これが指針の書き方です。

ただし例外もあります。他の法人に所属する応援医師は「その病院が雇用する労働者」ではありません。その場合に適用されるのは、指針の「他の事業主の雇用する労働者等からのパワーハラスメント」に関する項目で、扱いは措置義務ではなく「望ましい取組」に下がります。具体的には、相談先をあらかじめ定めて労働者に周知すること、被害が認められた場合に速やかに被害者への配慮(一人で対応させない等)を行うことが望ましい、とされる範囲です。

実務的には、あなたが雇用形態を調べる必要はありません。相談窓口には「同じ病院の医師から」と事実だけを伝えれば足ります。区別が要るのは病院側です。

5. 手術室に合わせた記録の残し方

手術室には、他部署にない強みがあります。時刻が客観的に残っていることです。入室、麻酔導入、執刀、閉創、退室——出来事の時刻をあとから正確に特定できます。記録の5項目(日時/場所と在室者/発言そのままの言葉/業務の文脈/自分の状態)は看護師のパワハラ対処法と共通ですが、手術室では「日時」と「場所と在室者」の書き方に固有のコツがあります。日付+診療科+術式の大分類+その日の何例目+手術のどの段階か、そして在室していた職種で特定してください。

記入見本

10/3(金)消化器外科・開腹・午後の2例目/閉創中/麻酔科医と外回り看護師が在室/「何回やってるの、この程度で手が止まるなら外して」と、開いたままの状態で。使用予定の持針器が前の症例から補充されていなかった件。/翌週の同じ執刀医の症例の前夜は眠れず。

⚠️ つまずきやすい落とし穴

手術室の記録でいちばん危ないのは、患者を特定できる情報を書き込んでしまうことです。症例番号、患者氏名やイニシャル、手術台帳のコピー、ID——これらを個人のメモに写せば個人情報の持ち出しになり、相談したい側が守秘義務の問題を抱えます。特定は「日付+診療科+術式の大分類+その日の何例目」で十分。事実確認の際は病院側が手術記録を照合できるので、あなたが患者情報を持つ必要はありません。もうひとつ、手術記録や麻酔記録に自分の主観を書き足すのも避けてください。診療記録は診療のための文書で、ハラスメントの記録は別に持つものです。混ぜると、どちらの信頼性も損ないます。

6. 相談の順番と、オペ室ならではの詰まり方

相談は院内(手術室の師長 → 看護部長 → 院内のハラスメント相談窓口)→ 院外(都道府県労働局 雇用環境・均等部、総合労働相談コーナー)の順に開きます。詳しい順番と各窓口は看護師のパワハラ対処法にまとめました。

手術室に固有の利点は、師長が台割りと医師との調整を担っていることです。「担当の組み合わせを変えてほしい」を、感情ではなく業務上の依頼として出せます。ただし、ここに固有の落とし穴があります。

⚠️ つまずきやすい落とし穴

手術室で最も多い詰まり方が、「じゃあ担当を外すね」で終わってしまうことです。一見あなたの希望が通ったように見えますが、これは行為者への対応ではなく被害者側の配置変更です。結果として担当できる症例が減り、経験の幅が狭まり、数か月後の評価面談で「対応できる術式が少ない」と言われる——という順番で不利益が返ってくることがあります。申し出るときは、「担当を外してほしい」ではなく「同じことが起きない形にしてほしい」と目的の側で伝えてください。暫定措置として台割りを変えるのは構いません。大事なのは、記録に「暫定措置であり、事実確認と再発防止は別に進める」と師長の言葉で残してもらうことです。口頭の合意は、師長が異動すれば消えます。

7. よくある失敗例

失敗例1: 「自分の技術が未熟だから」で説明を終える

器械出しの習熟度と、言われ方の相当性は別の問題です。指針が線を引くのは「業務上必要かつ相当な範囲を超えたか」であって、受け手の技量ではありません。技術の課題は指導計画で、言動の問題は相談窓口で——同じ場で同時に処理しようとすると、どちらも進みません。

失敗例2: 手術室の中だけで解決しようとする

「外回りの先輩に愚痴って終わり」を繰り返すと、記録も履歴も残りません。独立性が高く内部で完結させる文化が強い部署だからこそ、看護部という一段外の線に一度は乗せておくことが後から効いてきます。

よくある質問

Q. 緊急時に強い口調で指示されるのは、我慢すべきですか?

A. 指針は「業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導」はパワーハラスメントに該当しないとしています。急変時に語気が強くなること自体は、この範囲で説明がつく場面が多いはずです。分かれ目は、必要性が説明できるか、繰り返されていないか、人前での威圧的な叱責になっていないかの3点。術中の短い指示と、術後に長時間・他職種の面前で繰り返される叱責は、同じ「強い言い方」でも指針上の位置づけが異なります。記録もこの3点がわかる形で書いてください。

Q. 医師が非常勤や他病院からの応援の場合、病院は何もしてくれませんか?

A. 扱いは変わりますが、「何もしなくてよい」ではありません。その医師が病院に雇用されていれば措置義務の対象です。他の法人に所属する応援医師などの場合は、指針の「他の事業主の雇用する労働者等からのパワーハラスメント」の項目が働き、相談先をあらかじめ定めて周知すること、被害が認められた場合に速やかに被害者への配慮を行うことが望ましいとされています。あなたが雇用形態を調べる必要はなく、相談窓口に「同じ病院の医師から」と事実を伝えれば足ります。区別して対応するのは病院側の仕事です。

Q. 手術室を離れたら、これまでの経験は無駄になりますか?

A. 無駄にはなりません。器械出し・外回りで身についた術式の先読み、清潔操作、多職種との同期は、内視鏡センターや日帰り手術のクリニック、美容医療など手術室以外でも評価される技能です。部署を変えるか職場を変えるかで迷っている段階なら、オペ室看護師が辞めたいと感じる理由と、転科・転職で前に進む方法で選択肢の整理を、転職先の具体像はオペ室看護師の転職ガイドで扱っています。

「その病院の文化」なのかどうかを外から確かめる

医師と看護師の距離の取り方は、病院によってかなり違います。動くかどうかを決める前に、他の職場の運用を知っておくだけでも判断の材料が増えます。

まとめ

  • 行為者の2位は医師(39.9%): 上司→部下だけを前提にしたパワハラの説明は、看護の職場では4割ぶん外れる
  • 境目は強さではなく「必要性・繰り返し・人前」: 術中の短い指示と、術後に長時間・人前で繰り返される叱責は、指針上の位置づけが違う
  • 同じ病院に雇用されている医師なら、病院の措置義務の対象: 優越的な関係は、地位ではなく業務遂行上の依存関係でも成立しうる
  • 記録は日付+診療科+術式の大分類+その日の何例目で特定する: 患者情報は書かない
  • 「担当を外すね」で終わらせない: 暫定措置であることと、事実確認・再発防止を別に進めることを記録に残す

患者・家族からの暴言に悩んでいる場合は患者・家族からの暴言・暴力への向き合い方を、人間関係そのものが限界に近い場合は人間関係で辞めたいと感じたときの対処法をご覧ください。

参考文献

  1. 日本医療労働組合連合会「2022年 看護職員の労働実態調査」報告集(回答35,933人・問2/問24/問25/Ⅲ セクハラ・パワハラの具体的な内容)(2026-09-20 閲覧)
  2. 厚生労働省「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和2年厚生労働省告示第5号・令和2年6月1日適用)(2026-09-20 閲覧)
  3. 厚生労働省「令和5(2023)年 医療施設(静態・動態)調査・病院報告の概況」表11 一般病院の検査等、手術等、放射線治療の実施状況(2026-09-20 閲覧)
  4. 厚生労働省「職場におけるハラスメントの防止のために(パワーハラスメント)」(2026-09-20 閲覧)
  5. 厚生労働省「総合労働相談コーナーのご案内」(2026-09-20 閲覧)